若気の至りで若毛抜いたり

風呂場で、絶批大不評なあごひげを剃っていたとき。
ふと思い立って腕の毛を剃ってみた。
肌の色素が薄い割に毛の濃い体が、前々から少し気になっていたのだ。
もっとも、濃いのは専らスネ毛の方で、実は腕の毛は、他人と比べても薄い方なのだったのだけれども。
それでも気になっちゃったものは気になっちゃったんだからしょうがないし、変な話だが太くて長いこのスネ毛には愛着がある。
だから、剃るならスネ毛だ、と思った。


こんな感じのよく分からない理由で、体の各部の毛を抜いたり剃ったりすることが、実は私にはよくある。
小学生の頃は何故か頭髪をプチプチ引っこ抜くのがマイブームだったのだ。
タイムマシンがあるなら当時に帰って自分を全力でぶん殴りたい。
お前、見ろよ、俺、毛が細いから、ただでさえ薄く見られがちなんだ。
それをお前は、お前は、ちくしょう!
なんだと、殴って何が悪い、殴られもせずに毛根の育った奴があるかこのやろー!


……えー、閑話休題
そんなわけで、いや、大したわけもないのだが、風呂場でジョリジョリと腕の毛を剃った。
黙々と剃った。
腕だけ無毛なのも変なので、指と手の甲に生えた産毛も剃った。
産毛なら剃っても知人に気付かれにくいだろうし、最近は袖の長い服しか着ないから腕の隠蔽工作もばっちりだと信じて剃った。


こうして私の肘から先は生まれたままの姿となった。
少し悩んだが、上椀を剃るのはやめたのだ。
脇毛まで剃るのが怖かったこともあるし、剃っているうちに少し冷静になった部分もあったかもしれない。
ともかく、私は生まれ変わったのだ!
少しだけ誇らしい気分で風呂を出た。


タオルで体を拭く。
その肌触りが、生まれ変わったばかりの私の腕には少しくすぐったい。
そっと腕を撫でてみる。
赤ん坊のようなすべすべの肌だ。
おい誰だ老人肌なんて言った奴は。俺だ。ごめんなさい。


一通り楽しんだので服を着ようかと思った時に、それは起こった。


袖が、名状しがたい、何とも言いがたい不思議な感覚を、この無毛の腕に伝えるのだ。
私の貧弱な語彙では、この感触やそれによる心の動きを正確に伝えることはできない。
くすぐったいのとも違うし、痒いわけでもない。
何箇月か前に(やはり大した理由は持たずに)恥毛を剃った時は、翌々日から生え際の恥部が痒くて痒くて堪らなくなったのだが、それとは違っている。
ああ、この情動を伝えるためにここまでペンを進めてきたわけだが、悲しいかな私にそれを伝える術はない。
無駄毛を処理するたびに女性はこの感覚と戦っているのだと思うと、密やかな感動を覚える。
近ごろは無駄毛を処理する男性も増えたが、私はそれを習い性とする勇気はない。


一月も経てばまた腕毛は生え揃うのだろう。
そのとき、俗説のように、剃る前よりも濃く太い毛が生えないように願っている。