天空の花嫁

ドラクエ5クリア記念プレイ日記らしきものを書いてみる。
既プレイ者にはつまらなく未プレイ者にはネタバレという微妙な日記ですが、今クリアしたばかりのこの俺の情熱はもう誰にも止められない。

オープニング

 どこかのお城。
 ヒゲ親父が玉座の前で行ったり来たりしてると、隣室から使用人が慌てて入って来る。
「パパスさま、パパスさま! お産まれになりました!」
「そっ、そうか!」
 急いで隣室に駆け寄るヒゲことパパス王。そこには、ベッドに横たわってほほ笑む彼の妻と、産まれたばかりの男の子。
「あなた……」
「よくやったな! おうおう、このように元気に泣いて……」
 破顔一笑して赤ん坊の顔を覗き込むパパス。
「さっそくだが、この子に名前をつけないといけないな。うーん……。よし、うかんだぞ! サトチーというのはどうだろうかっ!?」
「まあ、ステキな名前! いさましくて、かしこそうで……。でもね、わたしも考えていたのです。トンヌラというのはどうかしら?」
トンヌラか……。どうもパッとしない名だな。しかし、お前が気にいっているならその名前にしよう!」
 そう言ってパパス王はトンヌラと名付けられた赤ん坊を抱き上げた。
トンヌラ! 今日からおまえはトンヌラだ!」
「まあ、あなたったら……。うっ……。ごほん、ごほん……」
「おい! 大丈夫か!?」
 咳き込む母を心配するように泣き出すトンヌラ。そして数年後――。


# いかにも曰くありげな母親病弱フラグだけど、実は全然話の筋に関係なかったりするのはどういうことなんだろうね!
# だけど大好きさドラクエ5

船上

 目を覚ますと、見知らぬ部屋の寝台に横たわっていた。体を起こして室内を見渡すと、父が背中を向けて座っている。暫く呆として見つめていると、気配に気付いたのか、父――パパスが振り向いた。
「……おとう、さん?」
「起きたか、リュカ。おはよう」
「あ、うん。おはよう……」
「どうした、浮かない顔をして。怖い夢でも見たのか?」
「うん。……怖い夢というか、変な夢」
 リュカは先ほど見た夢を父に説明した。
 どこかのお城で、お父さんが王様みたいな格好をしていた。そしたら太ったおじさんがお父さんを呼びにきた。呼ばれた部屋にはきれいな女の人と赤ちゃんがいて、その赤ちゃんが僕なんだ。
 子どもらしい、支離滅裂な夢の話。それでもパパスはじっとリュカの話を聞いていたが、最後まで聞いて豪快に笑った。
「ははは、父さんが王様か。長い船旅で退屈したからそんな夢を見たんだろう」
 そう言って立ち上がると、大きく伸びをした。
「さあ、そろそろ港に着く頃だ。朝の散歩代わりに、船長のところへ行って、あとどれくらいかかるか聞いてきてくれないか? 父さんは荷物を纏めているから」
「うん、分かった」


「おはよう、坊主」
「はい、おはようございます!」
「ははっ、今日も元気だな。どれ、お菓子やるよ。親父さんには内緒だぞ」
「わあ、ありがとう!」
 小さなリュカは船員たちの人気者だった。そもそもこの船は客船ではない。ごくごく普通の貨物船なのだ。そこに船員でも商人でもないリュカたち親子が乗っているのは、パパスと船長が古い知り合いだったから、ということだった。
 船員たちは最初、この奇妙な同乗者を訝しく思っていた。だが、寡黙ながらも実直で剛健なパパスの気質は海の男達によく馴染んだし、天真爛漫なリュカは荒みがちな船旅に花を供えてくれた。結果、二人の親子はすぐに受け入れられ、リュカはこの船のマスコットとなったのだった。
「ええと、こっちだったっけな……」
 広い船内を迷子になりながら、リュカは漸く目的の船長室への方角を思い出した。
 リュカたちが乗っている船は、標準的な貨物船よりはやや大きく、部屋数も多い。それはこの船が、老朽化した客船を改修したものだからだ。元客室の調度やラムに細工された女神像の流麗さを見るに、相当に高貴な身分の人間が使っていたことが分かる。
 揺れる廊下を右に左に曲がりながら進むと、突然後ろから大きな影がリュカを襲った。
「がおーっ!」
「わああっ!?」
 驚いて振り向くと、そこには髭を乱暴に伸ばした大男が仁王立ちしていた。
「おう、偉いぞ坊主。泣かなかったな」
「お、驚かさないでよ、ジャン」
「はっはっは、すまんすまん」
 ジャンと言う名の大男は、そう謝りながら大笑いした。船員の中でも一番力が強く仲間の信頼も篤いこの男は、最もリュカを可愛がっている者の一人だった。リュカも、よく肩車して遊んでくれるジャンが大好きだった。
「で、どうした坊主。こっちはお前の遊び場じゃないぞ」
「船長さんのところへ行くんだ。お父さんが、港までどれくらいかかるか聞いてきなさいって」
「ふん。あと一時間もかからない筈だぞ」
「ジャンには聞いてないの。船長さんに聞きに行くの」
「何を、生意気な! こうしてやる!」
「わ、やめてよジャン、ごめん、ごめんってば!」
 ジャンがリュカを掴み上げて振り回すと、リュカはきゃっきゃと笑いながら謝った。
「反省したか?」
 振り回した手を止め、リュカを自分の顔の高さに掲げるジャン。
「うん、反省した。ごめんなさい」
「よろしい。それじゃ、一緒に船長室へ行こうか」
「え? いいの?」
「どうせ俺も船長に報告することがあるしな。それに坊主一人だと、また迷子になるだろう」
「うん、ありがとう!」
「じゃあ迷子の王子様を連れて、船長室に行くとするか」
「……王子、様」
 ふと、リュカは今朝見た夢のことを思い出した。
 僕のお母さんは僕を産んですぐに死んじゃったってお父さんが言ってた。ひょっとして、あの夢って本当に――
「ん、どうかしたか、坊主?」
「……ううん、何でもないよ。行こう」
 きっと、ただの夢なんだ。リュカはそう考えて、夢のことを忘れることにした。

「それじゃあ、世話になったな、船長」
「いやいや、昔、私に掛けてくださった恩に比べれば。これぐらいのことは何でもありません」
 港に降りるのはリュカたち親子だけだった。正規の寄港地ではないので、下ろす荷物も積み上げる荷物もないのだ。
「だが、わざわざ我々のためだけにこんな港に泊まってくれて。本当に感謝している」
「ははは、どうせここは通り道ですから。探し物、見つかるといいですね」
「うむ、ありがとう。ではさらばだ。行くぞリュカ」
「あ、うん」
 大人の話に加われずに船を寂しげに見ていたリュカは、パパスに呼ばれて顔を上げた。
「もう行くの?」
「ああ。名残を惜しみすぎると、本当に別れられなくなるぞ」
「……分かった」
 渋々頷いたが、リュカは内心少し怒っていた。ジャンの姿がどこにも見えなかったのだ。あんなにたくさん遊んでくれたけど、結局、ジャンはリュカのことなんか嫌いだったのだ。
 リュカたちが港に降りると、すぐに船は出港した。遠ざかり行く船をじっと睨み付けていると、不意に、声が聞こえた。
「――おーい」
 ジャンの声だ。
 リュカはすぐに船上をくまなく探した。
 いた。マストの上だ。
「おーい! 坊主、強くなれよー!」
 ジャンが、マストの上で大きく手を振っていた。涙声だった。
「親父さんのように立派な人間になるんだぞー! 怖いこと、辛いことがあっても、泣かないで頑張るんだぞー!」
 それを聞いて、リュカは目に溜った涙が零れないように、大きく目を開いた。
 少しでも目をつぶれば涙が零れそうな気がした。袖で涙を拭えば堪え切れずに大泣きしそうな気がした。
 船が小さくなって水平線の彼方に消えるまで、パパスは黙ってリュカの頭を撫でてくれた。

続く

しまった、この字数になってもまだサンタローズの村にすら辿り着きそうにない!
というわけで続きます。


実際、この船だけで私は何度も泣きそうになりました。
少年編では、他のイベントや何気ないセリフで、何度も泣きそうになりました。
年を取って涙腺が緩んできたのかしら。


次の回からは、こういったエクスキューズはなくす予定です。
こんなペースで、ちゃんと完結できるかしら。