Ge(ゲルマニウム)ん次郎さんに捧ぐ

俺がロリでもペドでもないことを証明するための日記。
タイトルに他意はない。全然ない。誓ってない。誓わない。


 麗らかな午後。程よくまどろみながらの読書は、最高の贅沢だ。
 これでカテキョなんて面倒な仕事がなければ、もっと最高なのだが。背伸びしたい盛りの12歳は、なかなかに厄介な相手だった。
「せーんせ、何してんの?」
「読書」
 また始まった。このぐらいの歳の子は、大人のやることになんでも興味を持つ。
 案の定今日も、カナは俺の手にする分厚い本に興味を示した。向日葵柄のワンピースから伸びる長い足をばたつかせ、不思議そうにこっちを見る。
「それ、ジャンプ?」
 表紙を覗き込もうと、ポニーテールが左右に揺れる。彼女に見やすいように本を持ち上げて、カナに訊いた。
「何に見える?」
「ジャンプ」
「なら、そうなんじゃない?」
「読んだら貸して」
「カナちゃんが宿題終わらせたらね。じゃないと今日の勉強できないから」
 本来、学校の宿題にまで面倒を見る謂われはない。が、カテキョの課題ばかりが進んでも、学校の提出物が疎かになっては、結局査定に響くのだ。
「どれぐらい進んだ?」
「まだまだー。ね、せんせ、この問題分からないんだけど」
 机のドリルを指差すカナ。それを後ろから覗き込み、と同時に顔をしかめて呻いた。「漢字の書き取りに分かるも分からないもないだろ。さ、手を動かして」
「せんせがサボってるのに、カナだけ勉強つまんなーい。つーまーんなーい!」
「ばっ、やめろって! 分かった、休憩入れよう」
「やたっ、せんせ大好き! あたし、お茶淹れてくるね」
 がたん、と勢いよく椅子を蹴って、カナが立ち上がった。次いで、階段をどたどた駆け降りる音。
「はあ」
 ため息。これで、今日も「残業」決定か。


「ただいまー、クッキー持ってきましたー」
 言葉の通り、カナの持ってきた盆には、皿に盛られた焼き菓子が乗っていた。
 ポットを彼女から受け取って、急須に注ぐ。休憩時間に緑茶が出てくるのはいつもどおりだが、お茶受けの品目がおかしい。(なんで緑茶にクッキーなんだ)、と思ったが口には出さない。
 代わりに、勉強する気が全く無くなってしまったカナに釘を刺す。
「……本格的に休憩するつもりに見えるんだけど」
「もちろん! 何でも全力で一生懸命やれって言ったのは、せんせでしょ」
 胸を張って堂々とそんなことを言えるカナは、心底から大人物だと思う。
「本当に『何にでも』一生懸命やってくれるなら、先生も文句は言わないよ」
「でも、だって、漢字の書き取りなんて疲れるだけでつまらないもん。無意味だよ」
「あー、それは、まあなあ」
 自分の小学時代を思い出し、思わず同意しかけた。そこを今一歩で踏み止どまり、教師として最低限の威厳を見せる。
「といっても、学校の宿題ってそういうものだしな。そういうことは学校の先生に言ってくれよ」
「言ったよ。そしたら怒られた。だからせんせに言うの」
「……なかなかに大胆だね」言いながら、ひょいとクッキーを一つ摘んだ。
 と、その手をカナがじっと見つめる。あまりに熱い視線だったので、思わずクッキーとカナを見比べる。
「……何?」
「や、何でもない! 全然!」
 慌てたように胸の前で手を振るカナ。この大袈裟な反応で、今日の茶受けがクッキーだった理由が分かってしまった。
 ゆっくり、見せつけるようにクッキーを口に入れる。カナがぐいと前のめりになる。咀嚼のリズムといっしょに、彼女の瞳も上下に動いた。
 口を動かしたまま、湯飲みに手を伸ばす。口の中にクッキーはもうないが、茶を流し込む。そうやってタイミングを計ってから、カナに向き合い、先ほどと同じ問いを投げた。
「何?」
「……どう?」
 お茶の味を聞かれているのでないことは、どんな馬鹿でも分かる。
「旨いよ」
「……よかったー」
 一遍にカナの肩から力が抜ける。
「ね、これね、あたしが作ったんだよ」
「へえ、凄いじゃないか」
 大袈裟に驚いて見せる。
「でしょ? 頑張ったご褒美に――」「勉強しようか」「えー」
 うなだれるカナに、最後通牒を出す。
「先生は買収工作には応じません」
「けちー」
「さ、机に向かって」
「……うん、わかった。でもね」
「どうした?」
「その前に、ご褒美、ちょうだい」
「ご褒美なあ。何が欲しい?」
「バカ。知ってるくせに」
「バカはひどいなあ。……目を瞑って」
 返事を待たずに口付け。こちらが唇を割るより早くカナの舌が口腔内に侵入してくる。唾液を絡ませてやると、喜んで吸い立てた。
 ゆっくりと唇を離し、互いの顔を見る。カナは顔を紅潮させ、自慢げに問うた。
「どう?」
「巧いよ」
 正直に答える。
「何にでも全力で一生懸命やれって、先生が言ったから」
「熱心な生徒を持って先生は幸せだよ」
 ぎゅっと抱き締めてやると、カナは更に真っ赤になって、耳元に口を寄せた。
「カナと結婚したらもっと幸せになれるよ」
「そんな先のことは分からないな」
「絶対、絶対幸せだよ」
 カナが体を押しつける。体の温度とその柔らかさが、自分のシャツと彼女のワンピース越しに伝わってくる。
「とりあえず、今、幸せにしてよ」
 カナの下着に手を伸ばし、おもむろに脱がせる。暗黙の了解で、脱がせるのはいつもその綿の小さな下着だけ。
「せんせ、エッチ」
「エッチな先生は嫌?」
「ううん、好き。……ああ、もう、大好きだよ、せんせ」
 目を蕩けさせたカナが夢中で「好き」を連呼する。
 くそ。だからちびっこは嫌なんだ。
 一直線に感情をぶつけてくるから、こっちまで夢中になってしまうじゃないか。


「ちっちゃい子だから好き」ではなく「好きな子がちっちゃかった」ならロリでもペドでもないんじゃね? という実験。
これは仕方ないよね。不可抗力だもんね。うん、しょうがないよ。