武者たちの国(もはや原形無し)

「知り合えてよかったと思う、頑駄無。両陣営の間に、国境の色分けには左右されない強い絆があるとわかったのは非常な慰めだ。いつかまた会おう。しかし、もうその日が来ないとしたら……」彼はみなまで言わずに右手を差し出した。
 頑駄無も立ってその手をしっかり握った。「きっと会おう。状況は必ず好転する」
「だといいがな」サザビーは手をはなし、踵を返して池の端を歩き出した。
 頑駄無は烈火刀を強く握りしめて、運命との果たし合いに臨むべく立ち去ろうとしている三倍速の赤い男のぎくしゃくとした後ろ姿を見つめた。次世代の若武者たちの笑顔を瞼に描いて死んで行く覚悟であろう。見捨てることはできない、と頑駄無は思った。何も知らずに死地へおもむく彼を黙って見送ることはできない。
サザビー!」頑駄無は彼を呼び止めた。
 サザビーは足を止めてふり返った。頑駄無はその場を動かなかった。導我衆頭領はゆっくりと天幕の傍に戻った。
「一敗地にまみれた、とお前は言ったな。それは違う」頑駄無は打ち明けた。「アナハイム山で、今も殺駆頭たちは生きている……俺たちはやったんだ。芝居は必要ない。もう何週間も百騎隊が動いている。準備は進んでいる。天宮じゅうの璽悪が束になってかかっても、もはや決戦を阻害することはできない」
 サザビーはじっと頑駄無の顔を見つめた。頑駄無の言葉が彼の胸におさまるには長い時間がかかった。やがて、サザビーはゆっくりと、それとはわからぬほど微かにうなずき、どこか遠くを眺める目つきで低く言った。「ありがとう」
 彼は向きを変え、今度は夢の中にいるかのようにそろそろと歩き出した。二百歩ほど行ったところで、彼はまた立ち止まって頑駄無をふり返った。サザビーは無言で手をふった。次に歩きだすとすぐ、その足取りは目に見えて軽くなった。
 二百歩を隔てて、頑駄無はサザビーの顔に輝く歓喜をはっきりと見た。頑駄無はサザビーの姿が導我衆本陣付近の人込みに消えるまで見送り、それから向きを変え、反対側の自軍本陣を指して歩きだした。