墨攻

これ、酒見賢一の本が原作だったのかー。HJで東野幸治がベタ褒めしていた漫画版しか知らなかった。
というわけで墨攻を見てきました。以下、ネタバレ気味の感想。


頭を空っぽにして鑑賞するエンターテインメント作品としては、まずまずの出来。
ただ、真面目な歴史物を期待して見に行ったら酷くがっかりすることになる。なんで紀元前3世紀に気球が実戦で使われているんだよ! とか。劇場で我慢しきれず噴いた。


また、主人公革離の言動が支離滅裂なのも気になる。
「兼愛(万人を愛する)」と「非攻」を標榜する割には、自分勝手で戦争好き。
自分でバンバン敵兵を殺しておきながら、敵将に「あなたが戦争を辞めないから、あなたの部下がみんな死んでいく」なんて言い出したとき、僕は一体どうしようかと。完全に悪役の行動だよねー。


そしてこれが最大の欠点なんだけど、あらゆる要素を詰め込もうとしすぎ。
場面がせわしなく変わってそのたびに伏線もバラ撒かれるんだけど、その多くが回収されずに終わる。
単に俺が回収を見逃した伏線もあるんだろうけど、それだけ見逃される伏線回収ってのはそもそも意味がない。伏線はさりげなく張り、しかしその回収は大胆に、ってのが鉄則じゃないのかな。


序盤から登場人物がバンバン増えるけど、その登場に対して特にエピソードも無くただ増えるだけだから印象に残らない。革離以外は殆ど名前を呼ばれることもないから、服装や髪型で見分けるしかない。名前だけでも分かっていたら、今、誰が画面に映っているのか類推できたのに。*1
っていうか俺、ヒロインの名前、死んでから知ったよ。


また「墨家」「兼愛」「司徒」「司馬」と言ったワードが説明なしに出てくるのも、原点材料。
高校世界史レベルの知識とはいえ、知らない人は全然知らない言葉なんだから、何かしらかの解説は欲しかった。
とはいえ、中国ではこれらの単語は常識なのかもしれないけど。


OPとEDを繋げる手法は見事。「いい子だから」で鳥肌が立った。
全体に漂う精神的閉塞感と無常観はなかなかに素晴らしいものがあった。
それだけに、つくづくも構成と脚本の悪さが目立つ。残念な映画だった。
お口直しに水曜日にでも「硫黄島からの手紙」を見に行こうと思っているんだけど、こっちはどうかなあ。いい映画だといいけど。

*1:子団と梁適の見分けがつかず、ラストの戦争シーンで子団が出てきたときに「あれ? 若様死ななかったっけ?」と思ってしまった。